July 2,

ルグアイ出身で3児の母、ブランドの創設者、デザイナーとしてマルチに活動するガブリエラ・ハースト。2021年1月に行われたジョー・バイデン米大統領の就任式で夫人ジル・バイデンの衣装を手がけるかたわら、同年3月から大手ブランドクロエ(CHLOE)の新クリエイティブディレクターを務めるなど、ファッション業界で常に注目を集め続けている。


「ファッションの世界で働くことを自分で選んだ訳ではなく、
ある意味、ファッションが私を選んでくれたように感じるんです。」

今のキャリアへ導いたきっかけは、家族の存在だったそう。編み物やかぎ針編みをすることが
日常茶飯だった地方の実家で、いつも何かしら手を動かして時間を過ごしていた彼女。そんな環境で育ったことで、職人技術への理解やモノづくりの魂は幼い頃から根付いていたという。長持ちするモノを創り続ける彼女の原点は、ここにある。

ガブリエラ・ハーストは品質だけでなく、シンプルな美しさや穏やかでエレガントな雰囲気を大切にするデザイナーとして高い評価を得ている。2016年秋冬のコレクションでは、美しいヴェルヴェットやカシミアを用い、背中の目立たないドレスのカットアウト、ラインやドットを使い「愛」を綴る刺繍をほどこした遊び心溢れるアイテムが特徴的だ。爽やかさの中にも温かさを感じさせるハースト。今回、彼女は自身の美学、会社の成功、そして仕事と家庭の両立について語ってくれた。

女性たちとものづくりをすることがとても好き。
効率的だし、何かにつまずいたらあらゆる解決策を模索しようとするから。

ー ファッションデザインの世界で1番惹かれたことは?
私は、南米ウルグアイにある農場で動物に囲まれて育ちました。母は、美しくて優しく、乗馬をこよなく愛する人。18歳でロデオに参加したくらいですから、ワイルドな雰囲気を醸し出す人でした。普段はマニッシュな印象を感じさせる風貌でしたが、パーティなどの社交場には、綺麗に着飾っていく一面も持っていました。家族の服は、すべてお雇いの裁縫師さんが作ってくれていたので、一品ものでした。ウルグアイには、上質な生地を売っているお店はなかったため、パリから輸入し、雑誌を参考に裁縫師さんにオーダーして仕立ててもらっていました。母が自分の服をデザインしているのを見て育った私は、その様子に強く惹かれたんです。6歳の頃、母が「紺色のビロードドレスを作りましょう」と言ってくれて。今でもその時の嬉しさを、はっきりと覚えています。私の住んでいた場所には、ニューヨークのように特別なドレスを買える場所はありませんでした。だから、自分たちで作るしかなかったのです。

 

ー 自分でブランドを立ち上げようと思ったきっかけは?
他の仕事でクビになりすぎたから(笑)。でもショールームで働いた時「これならできる!」と感じて。それから本格的に始めて、順調に進むようになりました。もちろん最初は、細々と活動していたけれど。

 

ー あなたが手がけるコレクションのインスピレーションの源は?
1番の目標は、何かプラスαになるようなワードローブを作ること。それは、シーズンごとに服を買い換えるということではないです。新しいオプションでありながら、長く使えることが大切。昔から大事にされている価値観を持つ、現代の女性のための服をデザインしたいと思っています。 また、服がどのように作られているかも意識しています。どこから原材料が調達されているのか。どこで作られているのか。誰が作っているのか。そんな問いを常に持つようにしています。例えば、私たちが提供するカシミア製品は、“Manos del Uruguay”という300人以上の女性から成るNPOが生産しています。そのため、美しいカシミアを生産するだけでなく、彼女たちを経済的に支援することもできる。このように、私たちにとっての利益だけでなく、生産者にとっても優しい製品作りをいつも心掛けています。

 

ー お気に入りの生地はありますか?
ウールで何かモノを作るのが、とても好きです。触った時の指先の感覚や織物を見るだけで心が踊ります。ウールって無限に形を変えることができるから。

 

ー ウルグアイの農園で育った経験は、
デザインの美学やプライベートにどのような影響を与えたのでしょう?

私がやることには、何か田舎らしい一面があります。例えば、美しい生地やウールでモノを作る時、デザインに力強さを取り入れたり、生地や袖の裁ち端を残したりすること。どこかしらに自然の要素を表現することが多いです。

 

ー 普段のファッションスタイルについて、オフィスではどんな服を着ますか?
普段着る服は、すべて自分のブランドのもの。やっぱりどの服も愛着が深いし、服選びにあまり頭を使いたくないので。「ガブリエラ・ハースト」を買ってくれる女性にも、着る服に悩むことなく、5分でパッと着替えられることが私の理想です。オフィスに行く時は普段、ペンシルスカートに素敵なニットを合わせたり、ブレザーをスーツやスカートに合わせたりすることが多いですね。冬はいつもブーツ。春は花柄のワンピースに、メンズっぽい靴を合わせます。いつもドレスやスカートを着ているのは、それが私のスタイルだから。パンツスーツを着る時は、もっとフェミニンな靴を履きます。でも、マスキュリンとフェミニンのバランスを取るようにしています。

 

ー 美とファッションは密接に関係していますが、あなたにとっての美とは?
私にとっての美は、できるだけ自然体でいること。私はメイクが得意じゃないので、お出かけする時以外はノーメイクです。メイクをしたい日は、誰かにお願いしています。自分の目元には注目してもらいたいので、アイシャドウはニュートラルカラーで、口元はツヤ感のあるものを。とにかくシンプルでナチュラルでいることが、私らしさなのかもしれないですね。美しい赤い口紅がよく似合う女性が羨ましいです。 スキンケア製品はあまり使わないのですが、エスティ ローダーの「パワー フォイル マスク」は本当に大好き。これを使うと、肌のトーンが均一にパッと明るくなるんです。夫でも違いに気づくほど(笑)。それと、美容液もよく使っています。 最近、自分の写真を見ると髪の後ろがよく絡まっていることに気づいて、短く切ってみました。3人の子どもを育てながらフルタイムで仕事をしているので、綺麗にとかす時間がないんです。髪が短いと、少しボサボサでも、あえてそうしているように見せられるし!

 

ー ウルグアイで過ごした幼少期でのお気に入りの思い出はありますか?
また、それはご自身の人生と仕事にどのような影響を与えたのでしょうか?

「懸命に働きなさい」と教えられた経験はないんです。情熱を持って働く家族の様子を間近で見てきたので、関心を持ったことを追求する大切さを学んだ気がします。情熱的な家族に囲まれて育ったことが、今の自分に深く影響していると思います。

 

ー 起業家であることと同時に3児の母であることのバランスをどのように保っていますか?
夫と子どもたちと過ごす時間が大好きなんです。もちろんバランスを取ることは難しいですが、周囲のサポートがあること、そして自分の情熱を追求することが子どもたちにとっても良い影響を与えているはず、と自信を持っています。ただ時々「子どもたちにとって、仕事で留守にすることと家にいること、どちらが良いのだろう?」と悩むこともあります。でも結論としては、専業主婦であることも外に働きに出ることも一人ひとりの女性に託された選択だと思っていて。その選択肢があること自体が、とても恵まれている状態だということも忘れてはいけないと。家族を養うために、複数の仕事を掛け持つ女性もいますよね。個々人の判断に委ねられているとは思いますが、私の場合、働かないという選択は考えられません。良い母である前に、自分らしくありたいから。

 

ー 子どもたちは何らか、お仕事にも関わっていますか?
はい、オフィスにも遊びに来ますし、制作プロセスをすべて見ています。私がどのような仕事をしているのかも知っています。1番下の子は、私と一緒に世界中を飛び回っています。パリにプロモーションのために行っていますし、その他にもロサンゼルスには製品調査のために、モスクワには新店舗開店のために、ロンドンにはメディアとの取材で同行しています。ウルグアイにも、ウール製品に関する映画の撮影のため足を運んだことがあります。友人の夫には「君の子どもたちは、僕が20歳までに旅行した時よりも、ずっと多くの国を訪れているね」と言われました。

 

ー これから起業を考えている女性たちにアドバイスがあれば、ぜひ!
とりあえず始めることです。今持っているもの、できることで、とにかくスタートを切ることが大切。きっと誰もが、効率的に、様々な視点から問題解決の糸口を見つけることができます。私は、女性であることがとても好きです。一見クレイジーに見えても、実は着々と夢の実現に向かうことができるのだから。

 

ガブリエラ・ハースト
1976年、ウルグアイ・パイサンドゥ県生まれ。20代にモデルとしてパリに滞在した後、ニューヨークへ移住し舞台芸術を学ぶ。所持金わずか700ドルで2004年に「キャンデラ(Candela)」というニット系ブランドを立ち上げる。ヒット作は、馬に乗った女性をモチーフにした母の写真を元にデザインしたスクリーンプリントTシャツ。2015年には自身の名を冠したブランド「ガブリエラ・ハースト(Gabriela Hearst)」の創設者として、伝統的な技術とサステナブルな素材使いにこだわり抜いたハイクラスファッションを率いて、全米から注目を集めるデザイナー。

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